知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)知的財産権を有する企業の売上高

2025年07月09日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.202)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

2025年5月21日に韓国特許庁から、「知的財産権を保有する企業は、従業員一人当たり売上高がそうでない企業と比較して20.9%高い」という調査結果が発表されました。知的財産権と売上高に関する相関関係について興味深い結果が報告されておりますので、今回はこれらの関係について解説を行いたいと思います。

1.知的財産権の保有による企業の売上高の成果分析

今回発表された調査結果は、国家知識財産委員会と特許庁の依頼で行われ、韓国で初めて知的財産権のビッグデータと2010年から2023年にわたって韓国企業228,617社の経営情報に関するビッグデータを組み合わせ、知的財産権が企業の売上高に与える影響を分析したものとなります。
知的財産権を1件以上保有する企業は、そうでない企業に比べて従業員一人当たりの売上高が平均20.9%高いことがわかり、さらに、保有する知財権の種類や件数、海外進出の有無によっても売上高に大きな違いがみられたという結果が示されています。知的財産権は、特許権・実用新案権、意匠権、商標権など複数の権利が含まれますが、保有するこれらの権利の種類や件数、海外進出の有無によっても売上高に大きな違いが表れたということです。特許権のみ保有しているという場合のような、一種類のみの知的財産権を保有する企業の場合、従業員一人当たりの売上高が18.9%高く、二種類を保有する場合は27.1%、特許・商標・意匠の三種類をすべて保有する場合は32.7%と売上高の増加幅が拡大しています。
また、保有する権利の総数との関係も示されており、1件のみ知的財産権を保有する企業は知財権を一つも持ってない企業に比べて従業員一人当たりの売上高が15.4%高い一方、2件から19件を保有する企業は24.1%、100件以上を保有する企業は50.3%高いという結果も示されました。
さらに、海外での知的財産権の保有有無においても差が表れており、知的財産権を保有していない企業に比べて、韓国国内でのみ知的財産権を保有する企業は、売上高が20.3%高い一方で、外国でも出願をした企業は、27.3%高くなっており、大きな差がみられたとのことです。
知的財産権を保有することがビジネスでの成否につながり、その結果として売上高にも顕著な差異が表れている点が、今回の調査結果から見てとれます。

2.知財とダイナミック経済

上記の調査報告とは異なりますが、過去にも同様に知的財産権とビジネスでの相関関係について韓国特許庁から報告がなされたことがあります。2024年11月5日に報告された「韓国特許庁、『知的財産基盤ダイナミック経済の実現戦略』を発表」においては、以下のような相関関係が記載されています。こちらの報告内容においても、知的財産権を保有することが、有利な企業活動を推進できる要素の一つである点がわかります。

[知財とダイナミック経済]
  • 産業財産権(特許・意匠・商標など)の保有規模が1%増加すると売上高が0.35%増(2023年、知識財産研究院)
  • 産業財産権を保有する企業は保有してない企業に比べて売上高7.2%、輸出39.6%増(2023年、知識財産研究院)
  • 特許出願したことのあるスタートアップは資金調達の可能性が6.4倍増(2023年、欧州特許庁)
  • 生産性の増加には研究開発より特許権の増加が有意なプラス効果(2020年、通商情報学会)

3.中堅企業においても重要な要素

2025年3月に発表された韓国特許庁の報告によると、「韓国において中堅企業の数は企業全体の1.4%に過ぎないものの、全体輸出の18%、売上高の15%、雇用の14%を占め、保有する産業財産件数は平均51.5件(特許・実用新案20.7件、商標26.6件、意匠4.2件)となっている(2023年時点)」と報告されています。中堅企業においては、前述のとおり、有利なビジネス戦略を進めるべく知的財産権を比較的多く保有する傾向が出ています。しかしながら数のみ保有すれば良いというわけではなく、いかに保有する権利を活用するかという点が重要となってきます。この点について、韓国特許庁では「名品特許」とよばれる強い知財の創出を推進しています。

まとめ

今回紹介したとおり、知的財産権を多く保有したり、複数の種類を保有したり、海外でも保有することが、売上高等と良い相関関係が見られることがわかりました。一方で、売上高が高い結果、知的財産権を複数保有できている結果と考えることもできます。単に権利を保有するだけではなく、どのように活用するのか、ビジネス戦略における知財戦略が重要となります。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195